クレモナ


以前ご紹介した「ヴァイオリンの父」、アンドレア・アマティには5人の子供がいました。アポロニア(Apollonia)、エリザベッタ (Elisabetta)、ヴァレリア (Valeria) の3人の娘、そして、アントニオ(Antonio)とジロラモ(Girolamo、又はラテン語で Hieronymus) の2人の息子です。 このアントニオとジロラモが、通称「アマティ兄弟」(the Brothers Amati)として知られるアマティ家2代目のヴァイオリン製作者です。 なぜ「アマティ兄弟」なのでしょうか? もちろん、それは彼らが血のつながった兄弟であったからなのですが、その他にもこの二人が共同して楽器を製作、そして工房を経営していたからだという理由があります。彼らの楽器には通常、「Antonius & Hieronymus Fr. Amati」というようにアントニオとジロラモの名前が揃って記されたラベルが貼られています。 残念ながら父アンドレアと同様、アントニオについての記録はあまり残っていませんが、1556年に徴兵のためにクレモナで編集された名簿には、「リュートを作るマエストロ」としてアントニオの名が登録されています。 リュートと聞いて少し不思議に思う人がいるかもしれません。急速に市民権を得ていったとはいえ、当時のヴァイオリンは比較的新しい楽器。まだその全盛期にあったリュートとは違い、ヴァイオリンという言葉自体があまり普及していなかったようです。 実は、現在も『ヴァイオリン製作者』にあたるイタリア語は『Liutaio』で、こちらの語源も『リュート作り』です。 当時徴兵の対象になったのは16歳から50歳までの男性だったので、この時点でアントニオは少なくとも16歳、生まれたのは遅くとも1540年になります。既にマエストロを名乗っているからには、もう数年ほど早く生まれていたのでしょう。 アントニオの弟ジロラモが生まれたのは、1584年に書かれた委任状にジロラモの年齢が 23 歳だと記録されていることから、1561年のことだと分かるのですが、どうやらこれもそう単純な問題ではなさそうです。 というのも、ジロラモが一人目の妻であるルクレツィアと結ばれたのが 1574 年だという記録が残されているからです。1561年に生まれていたとしたら、なんとジロラモは13歳で結婚(!!!)したことになります。全く不可能ではないですが、考えにくいことですよね。 どちらにせよ、アントニオとジロラモの年は少なくとも十数年以上離れていたいたことは確かです。おそらく、腹違いの兄弟だったのでしょう。 アンドレアのもとで幼い頃から弟子として腕を磨いていたアントニオですが、1560年代に入ると彼独自の「癖」がアンドレアの作品に顕著に現れてきます。 ただの見習いとして父親の手伝いをするだけではなく、立派な一人前の職人として認められ、楽器の製作過程でより重要な役割を果たすようになっていたのでしょう。 1560年代後半からアンドレアが亡くなる 1577年までの間にアマティの工房で作られた楽器は、アンドレアのラベルが貼られてはいますが、実際には主にアントニオの手によるものです。 […]

【名器のお話し】アントニオ・アマティ1588年『メンデルスゾーン』


“エネスコ”グァルネリ・デル・ジェスのレプリカを製作したときの工程をご紹介します。 以下の工程はレプリカを作るために私がとっている方法です。作る楽器や個々のオーダーメイドで何が求められているかに合わせて臨機応変に製作方法を変えていきます。 大雑把な説明の仕方ですが、バイオリンを作ったことがある人にも、ちょっとした発見はあるかもしれません。 出来上がった楽器の紹介はこちらからどうぞ。2018 “Enescu” Guarneri del Gesu 以下のリンクをクリックすると各パーツの説明に飛びます。Ribs (側板)Front (表板)Back (裏板)Scroll (ネック、渦巻き)Assembly (組み立て) Ribs ボディの輪郭をもとに作った側板用のテンプレートです。Enescuは表板と裏板の形状が大きく異なるので、別々のテンプレートを用意します。 一般的に使われる内型といわれるものとは異なる、スケルトン型というものを使用します。ここにテンプレートを付けて作業します。 テンプレートを乗せるとこのようになります。 型に付いているブロックを成形し、横板をテンプレートにそって曲げていきます。 Cバウツを表と裏のテンプレートに沿って曲げ、膠でブロックに接着したところです。 さらに上と下側の側板を曲げる準備をします。 これで側板は全て付きました。 テンプレートを外すとこうなります。 表板に側板のラインを写しているところです。 Front 表板用に選んだ木材です。この一枚の状態から真ん中で割り、2枚にします。 2枚にしたものを本を開くような感じに合わせ、膠で接着します。ここに横板が後ほど接着される位置 と、バイオリンのおよその輪郭を描きます。 描いた輪郭を残すように糸鋸で切り取ります。楽器の内部になる裏側なので今はまだ平らです。 表側を大きなノミで削り、アーチとよばれる膨らみを出していきます。 アーチはこのようにテンプレートを使って確認しながら形作っていきます。このようなテンプレートは全て、今回Enescuを作るために新しく製図におこして作ったものです。 ノミでおおよその膨らみを出したあと、後ほどに写真が出てくる豆鉋という小さい鉋を使って曲線を出していきます。 さらにスクレーパーという道具を使いアーチをきれいにしていきます。 アーチを仕上げるのに使うのはこのスクレーパーという道具だけです。紙やすりは使いません。 アーチが出来上がったら、今度は裏側にむけ... […]

Making of “Enescu” Guarneri del Gesu


G.B.ガダニーニ、バイオリンの表板左下のふくらみ
バイオリンの作りと音の関係を説明するときによく使われる言葉が「ハイアーチ」です。隆起が高い楽器のことを表しているのですが、一言にハイアーチといってもその形状は様々です。 トノーニのアーチ バイオリンを実際に作ってみればよくわかることなのですが、隆起の高さが決まったからといって自動的にアーチのデザインが決まるわけではありません。 例えば上の画像にあるカルロ・トノーニ(Carlo Tononi)。彼の作品のアーチにはヴェネチアのメーカーが好んで採用していたシュタイナー・タイプのものと、どちらかといえばストラディヴァリに近いもう少しフラットなものがあります。上のものはシュタイナー・タイプのものです。 パフリング周辺の隆起の堀が深いのと、センターに向けて盛り上がる隆起がどこか箱のような作りをしているのがわかるますか? ルジェリのアーチ もちろん、同様に堀が深いハイアーチでも製作者によってはおもむきがガラリと変わります。下の画像は17世紀クレモナの製作者フランチェスコ・ルジェリ(Francesco Ruggieri)の作品です。 トノーニとは違い堀は深くとも隆起がスッキリしているのがわかりますか? アーチの高さ、堀の深さにかかわらず無駄な贅肉のついていないのが、オールド・クレモナのアーチの特徴です。 オールドクレモナのアーチのデザイン ガダニーニのアーチ 次はGB・ガダニーニ(Giovanni Battista Guadagnini)のヴァイオリンです。堀が強調されており、どちらかといえばトノーニに近いタイプになっています。 ガダニーニでも別タイプのアーチ 同じくガダニーニの作品。同じ製作者のハイアーチでも作りが少し異なっているのがわかりますか? このガダニーニは堀が浅く、丸みを抑えた作りになっていますね。 輪郭のエッジからほとんど下に窪まず、パフリングのあたりから急激に上昇するアーチになっています。あまりにも急すぎて、指板の下に当たりそうですね。 ハイアーチと音色 一般的なイメージでは、ハイアーチの楽器は甘美な音色をもっているけれども音量が足りないことになっています。しかし、ここに紹介している楽器はすべてコンサートホールでソロを弾くにも充分なパワーを備えたものでした。 バイオリンという楽器はその作りと音色の関係を一言で表せてしまえるような単純なものではないのです。アーチが高いから、低いから、板の厚みが薄いから、ニスが秘密のオイルニスだから、超古い木材を使っているから、等々、数ある要素の一つをとり「〇〇だからこういう音なんだ」と考えてしまうのはとても危険なことです。 演奏者にとっても、そしてもちろん私達職人にとっても。

ハイアーチってなんでしょう?