木村哲也
バイオリン製作家

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Making of “Enescu” Guarneri del Gesu

どのように“エネスコ”グァルネリ・デル・ジェスのレプリカを製作したのか?

以下の工程はレプリカを作るために私がとっている方法です。作る楽器や個々のオーダーメイドで何が求められているかに合わせて臨機応変に製作方法を変えていきます。

大雑把な説明の仕方ですが、バイオリンを作ったことがある人にも、ちょっとした発見はあるかもしれません。

出来上がった楽器の紹介はこちらからどうぞ。
2018 “Enescu” Guarneri del Gesu

以下のリンクをクリックすると各パーツの説明に飛びます。
Ribs (側板)
Front (表板)
Back (裏板)
Scroll (ネック、渦巻き)
Assembly (組み立て)

Ribs

two templates for ribs

ボディの輪郭をもとに作った側板用のテンプレートです。Enescuは表板と裏板の形状が大きく異なるので、別々のテンプレートを用意します。

skelton mould with blocks attached

一般的に使われる内型といわれるものとは異なる、スケルトン型というものを使用します。ここにテンプレートを付けて作業します。

mould with a template on top

テンプレートを乗せるとこのようになります。

mould with ribs partially bent

型に付いているブロックを成形し、横板をテンプレートにそって曲げていきます。

Cバウツを表と裏のテンプレートに沿って曲げ、膠でブロックに接着したところです。

さらに上と下側の側板を曲げる準備をします。

これで側板は全て付きました。

テンプレートを外すとこうなります。

表板に側板のラインを写しているところです。

Front

表板用に選んだ木材です。この一枚の状態から真ん中で割り、2枚にします。

2枚にしたものを本を開くような感じに合わせ、膠で接着します。ここに横板が後ほど接着される位置 と、バイオリンのおよその輪郭を描きます。

描いた輪郭を残すように糸鋸で切り取ります。楽器の内部になる裏側なので今はまだ平らです。

表側を大きなノミで削り、アーチとよばれる膨らみを出していきます。

アーチはこのようにテンプレートを使って確認しながら形作っていきます。このようなテンプレートは全て、今回Enescuを作るために新しく製図におこして作ったものです。

ノミでおおよその膨らみを出したあと、後ほどに写真が出てくる豆鉋という小さい鉋を使って曲線を出していきます。

さらにスクレーパーという道具を使いアーチをきれいにしていきます。

アーチを仕上げるのに使うのはこのスクレーパーという道具だけです。紙やすりは使いません。

アーチが出来上がったら、今度は裏側にむけ...

厚みを出していきます。

アーチと同じように、まずはノミを使い、さらに写真にある豆鉋、そしてスクレーパーで仕上げます。

このような道具を使い、パフリングの位置をケガキます。

ケガキを終えたところです。このようにパフリングのラインを描きます。

Enescu Guarneri del Gesuの写真とデータからおこした図面です。これをもとにf孔の位置を決めます。

さきほど描いておいたパフリングのラインを基準にします。

針先をつかって表板にf孔の輪郭を写します。グァルネリ本人も同じように輪郭を表板に描いていたので、彼の作品のなかにはこの針のあとが残っているものがいくつか存在します。

上下の穴をこのように開けます。

あとはナイフを使いf孔を削ります。

ケガキをしておいたパフリングの線を専用のナイフを使ってさらに深く切り込みます。

特殊なノミを使い、パフリングが入る溝を掘ります。

埋め込むパフリングは、それぞれ適した厚さに用意した黒と白の材料を貼り合わせたものです。黒い材料はもともと黒い黒檀を使っているのではなく、グァルネリと同じようにポプラや梨の木を黒く染めた材料を使っています。昔の製作者でも例えばガスパロ・ダ・サロは黒檀を使用してパフリングを作っていました。

グァルネリのパフリングは厚みがまちまちだったり、ところどころで折れていたり、隙間があったりします。そのような作者の癖も取り入れながら、埋め込んでいきます。

パフリングが終わりました。

輪郭の縁も丸めてやると、より一層バイオリンっぽくなります。

バスバーを表板のカーブに合わせて削り、接着します。

バスバーの形を整えてやります。機能的で美しいデザインというのはこういうものを言うのでしょう。

これで表板はニスを塗る準備ができました。木の色が少し茶色になっているのは日焼けをさせた後だからです。

下地とよばれるものを塗ります。これにより、この後に塗るニスが染み込まないようにするのと共に、木の表面が光を反射しやすいようにします。

この楽器のニスに色をつけるために使用したのは、インド産の茜の根から作った自家製の色の粉(顔料)とクルミの殻から作った同じく自家製の色の粉です。

自家製のオイルニスに混ぜていきます。

1層目のニスを塗りました。

2層目のニスを塗りました。

これからニスを古く見せるための作業に移ります。

ニスの表面のアップです。細かいヒビが入っているのがわかりますか?

オリジナルの楽器がどのような過程で現在の状態になったのかを分析しながら、経年変化をシュミレーションしていきます。

表板が仕上がりました。

Back

裏板用に選定した材木です。オリジナルにかなり近いものを用意しました。杢が非常に美しく豪華です。しかも年輪の幅も狭く揃っており、音作りの観点からも申し分ない材です。

表板と同じように、2枚にした板を接ぎ合わせます。

内側になる面を鉋で綺麗にし、およその大きさにノコギリで切断します。

裏板の輪郭を描きます。

輪郭を糸鋸で切ります。

大きなノミで膨らみを出し始めます。

豆鉋でさらに膨らみを整えていきます。

最後にスクレーパーで仕上げます。

内側を削り厚みを出していきます。

裏板の厚みは表板のものとはかなり異なり、中心が厚くなっています。

内側もスクレーパーで仕上げます。

パフリングを入れます。

さらにスクレーパーでパフリングの周辺を整え

縁を丸めてやるとニスを塗る準備に移ります。

日焼けをさせ、さらに下地を塗りました。模様が派手になっているのがわかるでしょうか。

表板と同じようにニスを2層塗ったところです。

さらに経年変化をさせ、裏板の完成です。

Scroll

写真とデータをもとに描いた図面からテンプレートを作ります。

ボディと同様、渦巻きも左右で形が大きく異なるので、やはり両側のテンプレートを作ります。

材料である楓材に輪郭を描きます。

輪郭にそって糸鋸で切り、形を整えます。

前からと...

後ろから見た輪郭も描きます。

接ぎネックをこの段階で行います。本来は出来上がった楽器の修理ですが、レプリカ製作の場合は渦巻きを仕上げる前にします。

渦巻きと棹になる部分を接着したところです。

渦巻きを作っていきます。

日焼けをさせ、下地を塗ったところです。

ニスを2層塗ります。

そして経年変化をさせ...

ペグ用の穴を開けますが...

オリジナルにあるように、ブッシングをして埋めます。

この後、リタッチをして色を合わせ、さらにもう一度穴を開け直せば、スクロールは出来上がりです。

Assemnbly

表板と裏板を側板に接着し、箱にします。

指板を作ります。

出来上がった指板をネックに接着し、ボディにセットする準備をします。

このようにネックをボディに接着させるためにフィットさせていきます。

無事、ボディとネックが接着された後、ネックの形状を整えます。

ネックに色を着け、仕上げました。

ペグの穴を一度埋めた跡はこうなります。

トップナットとサドルを加工して付けます。

これで楽器本体は出来上がりです。あとはペグ、魂柱、駒を作れば弦を張るのみです。

出来上がった楽器の紹介はこちらからどうぞ。

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