楽器のデザイン


Cremonaで使われていたデザインの仕方は、製作に使う型をデザインする方法でした。対するBresciaでは、楽器そのものの輪郭を描くというデザイン法をつかっていました。 ここでは、François Denisによって書かれた『Traité de Lutherie』と『1520-1724 Liutai in Brescia』に寄稿されている同氏のメソッドをもとにして、ガスパロ・ダ・サロが1590年頃に製作した『Harshman, Sandeman』と呼ばれるビオラのデザインを当時実際に使われていたであろう方法で製図してみます。 出来上がる楽器のボディの長さ、または幅を元に、横と縦の比が5:8になる長方形を描きます。 ここでいうボディの長さは、裏板のボタン部分を除いた寸法で、幅はローアーバウツの幅になります。 長方形に縦に中心線を描き、底辺と交わる接点をPとし、底辺の左角をp、右角をp’とします。pp’はローアーバウツの一番広い幅と同じ寸法になります。 pからpp’の長さの1/8を進んだ箇所に印をつけ、そこから上辺の角まで対角線を引きます。対角線と中心線が交わった接点がXになります。 このXを通過する横線を上辺と底辺に平行となる水平線を引きます。この線上に後ほど、楽器のローアーバウツのコーナーの位置が描かれます。 長方形の上辺に中心線が交わる接点をQとします。 長方形の横幅(pp’)の1/4を上辺の角から進んだ箇所に印をつけ、そこから底辺の角まで対角線を引きます。 対角線と中心線の接点がZになります。 Xのときと同じように、Zを通過する水平線をひきます。この線上にアッパーバウツのコーナーが後ほど描かれます。 pp’を7等分し、その4つ分をX線上に中心線から左右等しくなるように分配し、印をつけ、垂直線をZ線まで引きます。 この垂直線、eとe’がミドルバウツの一番狭い部分の幅を表します。 Z線上でe線からpの縦線までの距離の1/2の箇所に印をつけ、長方形の上辺まで垂直線を引きます。 右側でも同様にし、上辺との接点をqとq’とします。qq’の距離がアッパーバウツが一番広い部分の寸法がこのqq’の距離になります。 qからp’まで対角線を引き、中心線と交差する点をNとします。 Nを通過する水平線を少し長めに描きます。このN線上にミドルバウツの一番狭い箇所がくることになります。 ee’がミドルバウツの一番狭い部分の寸法になるので、ミドルバウツのカーブの一番窪んでいる部分はe線とN線の接点になります。 pp’を8等分にし、その5つ分が左のf孔から右のf孔までの最大距離になります。 少しわかりにくいのですが、ようするに、左のf孔の下側に開いている円の外側から、右のf孔の下側の円の外側までの距離のことです。 左端と右端をそれぞれa、a’とし、X線に向かって垂直線を描きます。長さは適当で大丈夫です。 aとX線の接点からZまでを直線で結びます。 Z線とpからの垂直線の交点からX線とp’からの垂直線の交点に対角線を引きます。 これらの線が交わる点から垂直線を引き、bとします。同様に反対側にもb’を描きます。 […]

【描いてみよう】Gasparo da Salo Viola Part 1


ローアーバウツを描く Part 1の手順を追って完成したのが、これから楽器の輪郭を描いていくための要になる枠となります。 まずはローアーバウツから描いていきます。 コンパスをNPの長さに合わせます。 NPを半径として、Nが中心になる弧を描きます。 Nを中心として半径がNP-1/2XPとなる弧を描きます。 pの縦線から水平に図ったときに1/2XPになる短い線を、その弧に交わるように引きます。 p’側も同様にします。 さきほど描いた弧と線の交点を中心にして、半径が1/2XPの円を描きます。 eの垂直線からpの垂直線までの距離を5等分にし、eから2つ分のところのX線上に印をつけます。 その印を中心にして、半径がXPになる弧を、1つ前の工程で描いた円に交わるように描きます。 上で描いた弧と円の交点を中心として半径がXPとなる弧を左右に描きます。 同じ交点を中心にして、今度は半径がXP+1/3XNとなる弧を描きます。 X線から1/3XN下がった場所に短い水平線を、先に描いておいた弧と交わるように描きます。 上で描いた弧と水平線の交点を中心にして、半径が1/3XNの円を描きます。 無駄な線をある程度消去して、整えたのがこの状態です。 これで、ローアーバウツの輪郭が描けました。 Part 3 ではミドルバウツの描き方に移ります。

【描いてみよう】Gasparo da Salo Viola Part 2


ミドルバウツを描く Part 2を終えた時点で、ローアーバウツが描けました。これから、ミドルバウツを描いていきます。 N線上に、e線からXZの距離をとって、印をつけます。 その印を中心に半径がXZの弧を描きます。 N線上のXZの弧を描いたのと同じ中心から、今度は、XZ-1/2XNを半径とした弧をN線から下の部分だけで良いので、描きます。 1/2XNの距離をX線からとり、平行に伸ばし、先程の弧に交わるようにします。 弧と直線の交点を中心に、半径が1/2XNの円を描きます。 XZの弧を描いたN線上の中心点を再び使い、今度は、XZ-1NZの半径としてN線よりも上側に弧を描きます。 1/2NZの距離をN線からとり、平行に伸ばし、先程の弧に交わるようにします。 弧と直線の交点を中心として、半径が1/2NZになる円を描きます。 線や弧を適当に整えて、これでミドルバウツが描けました。 次回Part 4では、アッパーバウツを描き、ビオラの輪郭を完成させます。

【描いてみよう】Gasparo da Salo Viola Part 3



アッパーバウツを描く Part 3を終えた時点では、ローアーバウツとミドルバウツが出来ています。 では、残りを完成させましょう。 Xを中心として、半径がXQの弧を描きます。 同じくXを中心とし、半径がXQ-1/3qq’になる弧を描きます。 qの垂直線から距離が1/3qq’になる位置に垂直線で印をつけます。このとき、先に描いておいた弧と交わるようにしてください。 この弧と線との交点を中心に、半径が1/3qq’の円を描きます。 e線からq線までの距離をZ線上で5等分し、e線から数えて1つ目に印をつけます。 その印を中心にし、半径が2/3qq’になる弧を先程の手順で描いた円と交差するように描きます。 円と弧の交点を中心とし、半径が2/3qq’になる弧を描きます。 同じ円と弧の交点を中心とし、今度は、半径が2/3qq’+1/2NZになる弧を描きます。 Z線から1/2NZ、上へ垂直に測り、水平線をたった今描いた弧を交差するように描きます。 この弧と直線の交点を中心とし、半径が1/2NZとなる円を描きます。 全体を再チェックし、不必要な弧や線を消し、整えていきます。 オリジナルのガスパロ・ダ・サロや他のブレシア派のコーナーの形は、精密とはとてもいえません。 よって、コーーナーの長さや末端部分の角度も楽器により異なりますが、ここで紹介している『Harshman, Sandeman』のコーナーの末端の角度は、だいだいこのような図に沿って、出来ています。 こちらが、コーナーを完成させた図になります。 『Harshman, Sandeman』のf孔をオリジナルの配置のまま、試しに並べてみると、こうなります。 輪郭と中心線以外を取り除いた完成図です。 完成図と『Harshman, Sandeman』の輪郭を重ねてみると、こうなります。黒線が今回デザインを製図したもの、赤線がオリジナルの輪郭になります。 『Harshman, Sandeman』は、ガスパロ・ダ・サロの作ったビオラの中でもあまりないデザインで、ミドルバウツの幅が他の部分と比べて非常に広くなっています。 オリジナルの寸法のままでデザインすると、ボディの長さが440mmを超えてしまうので、もし、このモデルでビオラを作ってみたいという方は、420mm以下になるようにしたほうがよいでしょう。

【描いてみよう】Gasparo da Salo Viola Part 4


Stradivari Viola Copy
比較的状態の良いストラディヴァリの渦巻きを見ると、輪郭の角を落とす面取りと呼ばれる加工のしてある部分が、黒く塗られているのがわかります。 これはアントニオ・ストラディヴァリが1690年頃に始めたもので、それ以前の作品には見られない特徴です。輪郭を強調させようとしたのでしょうか。ちょうど面取りそのものの幅が広くなるのと同時期です。 左にあるのが1690年以前の黒塗りがされていない渦巻きで、右が1690年以降の黒塗りがされている渦巻きになります。彫り方を比べてみてもその作風がかわっているのがわかりますね。 この黒い色は、色をつけるためのニスを塗る前に塗られています。そのため、ニスが保護膜となり、300年経ったいまでも所々にまだ残っているのです。 クレモナの製作者で面取りを黒くしたのは、ストラディヴァリ家の3人とグァルネリ・デル・ジェスだけです。カルロ・ベルゴンツィの作品にも明らかに面取りを黒塗りしてあるバイオリンが1棹 (1733年作『Salabue, Martzy』)と、どことなく塗ってあったような名残があるバイオリンがもうひとつ (1733-35作『Kreisler』)あります。しかし、この二つはどちらとも所有者だったコジオ伯爵によって、コーナーを短くするなど、手を加えられており、この黒塗りもストラディヴァリに傾倒していた彼の仕業の可能性が高いです。 このコジオ伯爵、トリノ時代のガダニーニにいろいろな指図をしてよりストラディヴァリっぽい作品を作らせようともしていました。もちろん、トリノ時代のガダニーニの渦巻きは面取りが黒く塗られています。上がミラノ時代のガダニーニの渦巻き、下がトリノ時代の渦巻きです。 勘違いをすることが多いのですが、ボディのコーナー部で側板がツノになっている先の部分は、ストラディヴァリは黒く塗っていません。ここを黒くしたのはデル・ジェスです。デル・ジェスは黒塗りをとても気に入っていたようで、他にもペグボックスの壁の内側の面取り(ストラディヴァリにはこの面取り自体がありません)や、裏板のボタンの面取り部分も黒くしています。

ストラディヴァリウスのスクロールその2


スクロールは製作者の個性が際立って現れる箇所です。当時の楽器としては比較的精度が高いストラディヴァリの楽器でも、渦巻きを見ると左右全く同じというわけではなく、彼の癖がよくわかります。 ストラディヴァリの黄金期に作られたヴァイオリンの渦巻きに特に目立つ特徴が、その楕円形です。言葉で説明するのが難しいので上にある図を見てください。 このような癖があるので、高音側から見たときの渦巻きには頭をもたげていくような印象があり、低音側から見たときには逆に頭をうつむかせていくような印象があります。幾何学的に描かれる渦巻きからずれていることで独特の動きと流れが出ています。 1704年製『ベッツ』の渦巻きの輪郭だけ線として残し、両側を重ねてアニメーションにしました。こうしてみると違いがわかりやすいですね。 この記事について、何かご質問はありますか? こちらのフォームからお気軽にお問い合わせください。 Journalに戻る

ストラディヴァリウスのスクロール