6月24日(土)から27日(火)まで、東京に滞在しています。ストラディヴァリとグァルネリモデルのヴァイオリンをお試しできますが、その他の楽器もご希望があれば可能な限り対応させていただきます。 ご興味のある方は、ご都合のよい日にちと時間帯などをお知らせください。こちらで場所と日程を調整させていただきます。

お知らせ


Betts Scroll Outline
スクロールは製作者の個性が際立って現れる箇所です。当時の楽器としては比較的精度が高いストラディヴァリの楽器でも、渦巻きを見ると彼の癖がよくわかります。   ストラディヴァリの黄金期に作られたヴァイオリンの渦巻きに特に目立つのが、楕円形です。言葉で説明するのが難しいので上にある図を見てください。   このような癖があるので、高音側から見たときの渦巻きには頭をもたげていくような印象があり、低音側から見たときには逆に頭をうつむかせていくような印象があります。幾何学的に描かれる渦巻きからずれていることで独特の動きと流れが出ています。   Stradivari1704『Betts』 1704年製『ベッツ』の渦巻きの輪郭だけを残し、両側を重ねてアニメーションにしました。こうしてみると違いがわかりやすいですね。  

ストラディヴァリのスクロール


2011 Bergonzi Copy
ヴァイオリンのデザインと聞くと、まず思い浮かべるのがボディの輪郭ですよね。しかし、表裏板の膨らみ、つまり『アーチ』も楽器の音色と密接に関係するデザインの要素です。では、そのアーチはどのようにデザインされているのでしょうか。 16〜18世紀半ばのクレモナのヴァイオリンのアーチの美しさには目を見張ります。同じクレモナの楽器でも、アーチには様々なスタイルがあり、同じ製作者が作ったものでも時期が違えばおもむきが正反対のアーチを使っていたりします。しかし、彼らのアーチにはいつもなにか共通した文法のようなものが存在しています。常に美しくありながら自由度が高いデザインの方法を知っていたのでしょう。 クレモナの巨匠がアーチのデザインを得るためにおそらく使っていただろうと現在幅広く認められているのが、短縮サイクロイド曲線(Curtate Cycloid)というものです。 短縮サイクロイドを使ってオールドヴァイオリンを分析し発表したのはトゥリオ・ピゴリ (Tullio Pigoli)が初めてだったと言われていますが、これとは別に独自の研究を行い発表し、普及させたのがクエンティン・プレイフェア  (Quentin Playfair)です。ピゴリの記事は1984年4月号の『Liuteria』に、プレイフェアの記事は1999年11月号の『The Strad Magazine』に掲載されています。 短縮サイクロイドについての詳しい説明はここでは省略し、ここでは短縮サイクロイドを実際にどのように使ってアーチを描くのかをご紹介します。 まずはデル・ジェスの父親であるグァルネリ・フィリウス・アンドレアが1705年頃に製作したヴァイオリンを例として説明します。古い楽器のアーチは経年変化によって歪んでいることが多くこの楽器も例外ではないのですが、ここでは一番歪みが少ない部分である裏板のアッパーバウツのアーチを使います。 アーチの幅と高さまずは描きたいアーチの幅と高さをだします。ここで注意するのは、これらの寸法をアーチが一番低くなっている点を基準にして測るということです。なので、ここでいうアーチの高さ=表裏板の高さではありません。また、ボディの幅が同じ楽器でも掘りの広さによってアーチの幅は変わってきます。 2つの寸法を使ってこのような円盤を作ります。円盤が一回りしたときの距離、つまり円周がアーチの幅と一緒になるようにしたいので、直径をアーチの幅÷3.14で求めます。さらに円盤の中心からアーチの高さ÷2の位置に鉛筆の先が入る大きさの穴を開けます。これで準備完了。あとは動画にあるように簡単に短縮サイクロイドが描けます。 出来上がった曲線はこのようになります。美しいですね。 Guarneri filius Andrea 1705 裏板のアーチサイクロイドで描いた曲線をオリジナルから写されたアーチと比べてみます。 歪みや製作過程で生まれる誤差を考慮するとほぼ完璧に一致しています。ここまで合っていると偶然とはとても思えません。 Guarneri filius Andrea 1705 表板のアーチ表板は裏板に比べると歪みが酷く、短縮サイクロイドが当てはまらないことが多いのですが、このフィリウス・アンドレアでは裏板用に描いた曲線がピッタリとあいます。   大きさの違う円盤をいくつか用意すれば様々なモデルに対応して使えます。アッパーバウツのみならずセンターやローアーバウツのアーチも描けますし、もちろんヴィオラ、チェロにも対応できます。 Guarneri del Gesu 1731『Baltic』後期の作品では例外もありますが、グァルネリ・デル・ジェスのアーチにも綺麗に短縮サイクロイドが当てはまります。ここでは『バルティック』のアーチで試してみましたが、パガニーニが愛用していたことで有名な『キャノン』のアーチにも短縮サイクロイドが適用できます。 グァルネリ・デル・ジェス 1731年製『バルティック』アッパーバウツ 幅:148mm 高さ:8mm Antonio Stradivari 1709『Viotti』もちろんストラディヴァリのアーチにも短縮サイクロイドが使われています。 アントニオ・ストラディヴァリ1709年製『ヴィオッティ』アッパーバウツ 幅:155mm 高さ:7mm   Nicolo Amati 1649『Alard』アマティに代表される掘りが広く深いアーチも描けます。 ニコロ・アマティ『アラード』アッパーバウツ 幅:133mm 高さ:9.5mm このようにアマティからデル・ジェスにいたるまで、昔のクレモナの製作者は短縮サイクロイドをもとにアーチをデザインしていたようですが、その他の地域ではどうだったのでしょうか? ヴェネチアを代表する製作者の一人であるドメニコ・モンタニャーナのアーチを見てみましょう。   Domenico Montagnana 1717クレモナのアーチと同じように描こうとするとずれが生じます。   しかし、オリジナルのアーチが一番低いところを基準にするのではなく、パフリングからパフリングまでの距離をアーチの幅としてサイクロイドを描き直すと一致します。 […]

アーチのデザイン



アンドレア・グァルネリをベースにしたヴィオラです。 製作年:2006年 ボディ長さ:413mm アッパーバウツ:196mm センターバウツ:131mm ローアーバウツ:242mm

2006 Andrea Guarneri Viola


2006delGesu
私が普段調合して使うオイルニスは顔料を加えなくても濃い色をしています。この色は樹脂を長時間加熱することで得られるものですが、それ以外にもニス自体の色を濃くする方法があります。オイルに色をつける方法です。 材料; 亜麻仁油(又はくるみ油) 1kg ガンボーギ 360g アロエ・フェロックス 360g バーントアンバー(粉体) 小さじ1 材料を全てアルミまたはステンレス鍋で150℃から180℃まで熱し、その状態で6時間ほど煮込みます。この際、蓋はしないでください。少し冷ましてからフィルターでこしたら出来上がりです。あとは好きなオイルニスのレシピで樹脂と調合させて使ってください。 この色付きオイルを私が使っていたのは10年以上前になります。鮮やかな黄金色が出るのですが、ニスの粘度が上がるのとガンボーギの毒性が気になるので長女が生まれたのを機会に使用を止めました。作ってみたいという人はくれぐれも健康に配慮をして行ってください。

色付きオイル


2016 Copy of Domenico Montagnana
一般的なオイルニスでも特に樹脂の割合がオイルに比べて高いものを『ショートオイルニス』(Short Oil Varnish) とよびます。2010年にStefan-Peter Greiner とBrigitte Brandmairによって書かれた本『Stradivari Varnish』が出版されてからというもの、このショートオイルニスの人気が高まっています。では、この類のニスにはどのような特徴があるのでしょうか? 近年の研究では、Stefan-Peter Greiner とBrigitte Brandmairの他にもJean-Philippe Echardがストラディヴァリのニスはショートオイルニスだったのではないかと論文で述べています。『Stradivari Varnish』では著者がストラディヴァリに近いのではないかとするニスは、オイルと樹脂の重量比が 1:4 です。 ショートオイルニスの特徴を挙げましょう; オイルニスを調合する際、加熱処理により色を濃くできるのは樹脂なので、その割合が高いショートオイルニスではニスの厚みに対する色の濃さが強くなる。 磨きやすい。 剥がれやすい。 経年変化でヒビが入る。 剥がれやすかったり、ヒビが入るニスを使うのは……と思うかもしれませんが、どちらもストラディヴァリが使っていたニスの特徴です。 私もこの1:4という割合でニスを調合して何度か使ってみたことがあります。しかし、オイルと樹脂を混ぜるだけでは粘度が非常に高いためテレピン油、またはペトロールで薄めなければならず、その結果どうしても使い辛いと感じていました。カナダの製作家、Guy Harrisonのショートオイルニス(オイル:樹脂=1:3)も試してみたのですが、これもやはり薄めずに使えません。 そこでなるべくショートオイルニスの特徴を保ちつつ、長年愛用しているマルチャーナニスと同じように扱いやすいニスを少し工夫して調合してみました。 材料; ヴェネチアテレピン 100g(150c〜180cで100時間加熱処理済み) マスティック 24g くるみ油 80g ビーズワックス 10g 上記の材料をアルミ鍋などで一緒に150cくらいまで加熱し、まんべんなく混ざったら火を止めます。絶対に蓋はしないようにしてください。樹脂のみを加熱する場合は問題ないのですが、一度オイルを混ぜた状態で蓋をして加熱すると、急に温度が上がり過ぎ、さらに慌てて蓋を外すと発火します。 長時間にわたり加熱する必要はありません。20分〜30分もあれば充分です。加熱のし過ぎはニスの質を劣化させます。このニスはオイルと樹脂の割合がほぼ2:3で、常温ではほぼ生キャラメルのような粘度ですが、薄めなくても手で塗れます。 ヴェネチアテレピンの代わりに松脂(コロフォニー)を、くるみ油の代わりに亜麻仁油を使ってもかまいません。使う樹脂によって出来上がるニスの色が大きく変わってくるので、自分にあうものを探せば良いでしょう。また、石灰や灰汁などでpHを調整することによりニスの色もある程度変えることができます。ただその際にはニスの質も変化するので気をつけてください。 ビーズワックスを入れたのは主に乾いた後のニスが剥がれやすくするためです。ニスの質感も変わります。そんなに剥がれやすいと困るという人は入れなくても良いです。ちなみに「剥がれやすいニス=柔らかいニス」と勘違いしている人が多くいますが、そうではありません。ニスそのものはショートオイルニスよりもオイルの割合が高いロングオイルニスのほうが柔らかい層を作ります。 ちなみに、Helen Michetschlägerが編集した本『Violin Varnish』 によると、故Koen PaddingがMagisterブランドで調合、販売していたオイルニスは、オイルと樹脂の割合が4:1のロングオイルニスだった可能性があるそうです。ただし、彼のニスをよく知る人によると、それよりはオイルが少なめの6:5くらいだったのではないかとのことです。ロングオイルニスの利点はショートオイルニスに比べて格段に塗りやすいことにあります。

ショートオイルニス



ヴァイオリンの作りと音の関係を説明するときによく使われる言葉が「ハイアーチ」です。隆起が高い楽器のことを表しているのですが、一言にハイアーチといってもその形状は様々です。 ヴァイオリンを実際に作ってみればよくわかることなのですが、隆起の高さが決まったからといって自動的にアーチのデザインが決まるわけではありません。例えば上の画像にあるカルロ・トノーニ(Carlo Tononi)。彼の作品のアーチにはヴェネチアのメーカーが好んで採用していたシュタイナー・タイプのものと、どちらかといえばストラディヴァリに近いもう少しフラットなものがあります。上のものはシュタイナー・タイプのものです。パフリング周辺の隆起の堀が深いのと、センターに向けて盛り上がる隆起がどこか箱のような作りをしているのがわかるますか?   もちろん、同様に堀が深いハイアーチでも製作者によってはおもむきがガラリと変わります。画像にあるのは17世紀クレモナの製作者フランチェスコ・ルジェリ(Francesco Ruggieri)の作品です。トノーニとは違い堀は深くとも隆起がスッキリしているのがわかりますね。アーチの高さ、堀の深さにかかわらず無駄な贅肉のついていないのが、オールド・クレモナのアーチの特徴です。   次はGB・ガダニーニ(Giovanni Battista Guadagnini)のヴァイオリンです。堀が強調されており、どちらかといえばトノーニに近いタイプになっています。 同じくガダニーニの作品。同じ製作者のハイアーチでも作りが少し異なっているのがわかりますか?このガダニーニは堀が浅く、丸みを抑えた作りになっていますね。 一般的なイメージでは、ハイアーチの楽器は甘美な音色をもっているけれども音量が足りないことになっています。しかし、ここに紹介している楽器はすべてコンサートホールでソロを弾くにも充分なパワーを備えたものでした。 ヴァイオリンという楽器はその作りと音色の関係を一言で表せてしまえるような単純なものではないのです。アーチが高いから、低いから、板の厚みが薄いから、ニスが秘密のニスだから、超古い木材を使っているから、等々、数ある要素の一つをとり「〇〇だからこういう音なんだ」と考えてしまうのはとても危険なことです。演奏者にとっても、そしてもちろん私達職人にとっても。

ハイアーチ


弦楽専門誌『ストリング』でおよそ二年ほど連載されたコラムでは、オールドの名器と製作者たちをわかりやすく紹介しました。ここに連載で取り上げたヴァイオリン製作者/楽器の一覧を載せておきます。興味を惹く記事が見つかりましたら、ぜひ、バックナンバーを取り寄せてご覧になってください。 2010年 10月号 アントニオ・ストラディヴァリ 1716年作 『メサイア』 (Antonio Stradivari 1716 "Messiah") 11月号 グァルネリ・デル・ジェス 1741年作 『ヴュータン』 (Guarneri del Gesu 1741 "Vieuxtemps") 12月号 アンドレア・アマティ 1566年作 『タリー・ハウス』 (Andrea Amati 1566 "Tullie House") 2011年 1月号 アントニオ・アマティ 1588年作 『メンデルスゾーン』 (Antonio Amati 1588 "Mendelssohn") 2月号 ジロラモ・アマティ 1611年作 ヴァイオリン (Girolamo Amati 1611) 3月号 ニコロ・アマティ 1649年作 『アラード』 (Nicolo Amati 1649) 4月号 ニコロ・アマティ 1630年作 ヴァイオリン (Nicolo Amati 1630) 5月号 ジャコモ・ジェナロ 1611年作 ヴィオラ (Giacomo Gennaro 1611) 6月号 アントニオ・ストラディヴァリ 1721年作 『レディ・ブラント』 (Antonio Stradivari 1721 "Lady Blunt") 7月号 ニコロ・アマティ 1675年作 ヴァイオリン (Nicolo […]

『知っているようで知らない名器の逸話』


Serafin
ニスが塗られている木の肌の色と質がニスの見栄えに与える影響は非常に大きいことは知っていますか。通常オールドにはリタッチ(色直し)という修理がされているため、この木の色を裸の状態で見ることは稀です。 一見ニスがはげてしまっている箇所も実は巧妙にリタッチが施されていたり、汚れていたりするため実際の色よりも濃く見えていることがほとんどです。オールド・イタリーは黄金色の下地を持っているなんていう話をよく聞きますが、大抵の場合、想像するよりもずっと薄い色をニスの下の木はしています。 写真にあるのは事故でニスが取れてしまったセラフィンの裏板です。オリジナルに近い状態で残っているニスはCバウツのパフリングの辺り。同じCバウツでも楽器のセンターよりで見られるのは、一度ニスがはげてしまった木を再びリタッチによってカバーした状態です。新たにニスが取れてしまった箇所と色の違いをくらべてみてください。

Santo Serafin