製作



2017 Bellosio Viola
現在製作中のアンセルモ・ベロジオのビオラです。ボディは390mm (15 1/3 inches)と小さいですが、弦長は410mmくらいのビオラと変わりません。そのため音量も充分にあります。 8月4日(金)から7日(月)まで、東京にて試奏できます。ご興味のあるかたはこちらからご連絡ください。 関東圏外のかたでご興味のあるかたについては、個別に日程を調整させていただきますので、こちらからご連絡ください。        

現在製作中の楽器


2011 Bergonzi Copy
ヴァイオリンのデザインと聞くと、まず思い浮かべるのがボディの輪郭ですよね。しかし、表裏板の膨らみ、つまり『アーチ』も楽器の音色と密接に関係するデザインの要素です。では、そのアーチはどのようにデザインされているのでしょうか。 16〜18世紀半ばのクレモナのヴァイオリンのアーチの美しさには目を見張ります。同じクレモナの楽器でも、アーチには様々なスタイルがあり、同じ製作者が作ったものでも時期が違えばおもむきが正反対のアーチを使っていたりします。しかし、彼らのアーチにはいつもなにか共通した文法のようなものが存在しています。常に美しくありながら自由度が高いデザインの方法を知っていたのでしょう。クレモナの巨匠がアーチのデザインを得るためにおそらく使っていただろうと現在幅広く認められているのが、短縮サイクロイド曲線(Curtate Cycloid)というものです。短縮サイクロイドを使ってオールドヴァイオリンを分析し発表したのはトゥリオ・ピゴリ (Tullio Pigoli)が初めてだったと言われていますが、これとは別に独自の研究を行い発表し、普及させたのがクエンティン・プレイフェア  (Quentin Playfair)です。ピゴリの記事は1984年4月号の『Liuteria』に、プレイフェアの記事は1999年11月号の『The Strad Magazine』に掲載されています。短縮サイクロイドについての詳しい説明はここでは省略し、ここでは短縮サイクロイドを実際にどのように使ってアーチを描くのかをご紹介します。まずはデル・ジェスの父親であるグァルネリ・フィリウス・アンドレアが1705年頃に製作したヴァイオリンを例として説明します。古い楽器のアーチは経年変化によって歪んでいることが多くこの楽器も例外ではないのですが、ここでは一番歪みが少ない部分である裏板のアッパーバウツのアーチを使います。 まずは描きたいアーチの幅と高さをだします。ここで注意するのは、これらの寸法をアーチが一番低くなっている点を基準にして測るということです。なので、ここでいうアーチの高さ=表裏板の高さではありません。また、ボディの幅が同じ楽器でも掘りの広さによってアーチの幅は変わってきます。 2つの寸法を使ってこのような円盤を作ります。円盤が一回りしたときの距離、つまり円周がアーチの幅と一緒になるようにしたいので、直径をアーチの幅÷3.14で求めます。さらに円盤の中心からアーチの高さ÷2の位置に鉛筆の先が入る大きさの穴を開けます。これで準備完了。あとは動画にあるように簡単に短縮サイクロイドが描けます。 https://youtu.be/ic9JU4iSLmk 出来上がった曲線はこのようになります。美しいですね。 サイクロイドで描いた曲線をオリジナルから写されたアーチと比べてみます。歪みや製作過程で生まれる誤差を考慮するとほぼ完璧に一致しています。ここまで合っていると偶然とはとても思えません。 表板は裏板に比べると歪みが酷く、短縮サイクロイドが当てはまらないことが多いのですが、このフィリウス・アンドレアでは裏板用に描いた曲線がピッタリとあいます。  大きさの違う円盤をいくつか用意すれば様々なモデルに対応して使えます。アッパーバウツのみならずセンターやローアーバウツのアーチも描けますし、もちろんヴィオラ、チェロにも対応できます。 後期の作品では例外もありますが、グァルネリ・デル・ジェスのアーチにも綺麗に短縮サイクロイドが当てはまります。ここでは『バルティック』のアーチで試してみましたが、パガニーニが愛用していたことで有名な『キャノン』のアーチにも短縮サイクロイドが適用できます。グァルネリ・デル・ジェス 1731年製『バルティック』アッパーバウツ 幅:148mm 高さ:8mm もちろんストラディヴァリのアーチにも短縮サイクロイドが使われています。アントニオ・ストラディヴァリ1709年製『ヴィオッティ』アッパーバウツ 幅:155mm 高さ:7mm  アマティに代表される掘りが広く深いアーチも描けます。ニコロ・アマティ『アラード』アッパーバウツ 幅:133mm 高さ:9.5mm このようにアマティからデル・ジェスにいたるまで、昔のクレモナの製作者は短縮サイクロイドをもとにアーチをデザインしていたようですが、その他の地域ではどうだったのでしょうか?ヴェネチアを代表する製作者の一人であるドメニコ・モンタニャーナのアーチを見てみましょう。 クレモナのアーチと同じように描こうとするとずれが生じます。  しかし、オリジナルのアーチが一番低いところを基準にするのではなく、パフリングからパフリングまでの距離をアーチの幅としてサイクロイドを描き直すと一致します。ドメニコ・モンタニャーナ 1717年製ヴァイオリン アッパーバウツ 幅:155mm 高さ:7mm 円盤を使ってアーチを描くのは非常に楽しい作業なのですが、そんなことはやってられないというかたは、こちら のウェブサイトをどうぞ。必要な数値を入力するだけで短縮サイクロイドを描いてくれます。あとはPDFで出力して印刷すればOK。ただしプリンターの設定によっては勝手に縮小されて印刷されてしまうことがあるので、必ず確認するようにしてください。

アーチのデザイン



2016 Copy of Domenico Montagnana
一般的なオイルニスでも特に樹脂の割合がオイルに比べて高いものを『ショートオイルニス』(Short Oil Varnish) とよびます。2010年にStefan-Peter Greiner とBrigitte Brandmairによって書かれた本『Stradivari Varnish』が出版されてからというもの、このショートオイルニスの人気が高まっています。では、この類のニスにはどのような特徴があるのでしょうか? 近年の研究では、Stefan-Peter Greiner とBrigitte Brandmairの他にもJean-Philippe Echardがストラディヴァリのニスはショートオイルニスだったのではないかと論文で述べています。『Stradivari Varnish』では著者がストラディヴァリに近いのではないかとするニスは、オイルと樹脂の重量比が 1:4 です。ショートオイルニスの特徴を挙げましょう;オイルニスを調合する際、加熱処理により色を濃くできるのは樹脂なので、その割合が高いショートオイルニスではニスの厚みに対する色の濃さが強くなる。磨きやすい。剥がれやすい。経年変化でヒビが入る。剥がれやすかったり、ヒビが入るニスを使うのは……と思うかもしれませんが、どちらもストラディヴァリが使っていたニスの特徴です。私もこの1:4という割合でニスを調合して何度か使ってみたことがあります。しかし、オイルと樹脂を混ぜるだけでは粘度が非常に高いためテレピン油、またはペトロールで薄めなければならず、その結果どうしても使い辛いと感じていました。カナダの製作家、Guy Harrisonのショートオイルニス(オイル:樹脂=1:3)も試してみたのですが、これもやはり薄めずに使えません。そこでなるべくショートオイルニスの特徴を保ちつつ、長年愛用しているマルチャーナニスと同じように扱いやすいニスを少し工夫して調合してみました。 材料;ヴェネチアテレピン 100g(150c〜180cで100時間加熱処理済み)マスティック 24gくるみ油 80gビーズワックス 10g上記の材料をアルミ鍋などで一緒に150cくらいまで加熱し、まんべんなく混ざったら火を止めます。絶対に蓋はしないようにしてください。樹脂のみを加熱する場合は問題ないのですが、一度オイルを混ぜた状態で蓋をして加熱すると、急に温度が上がり過ぎ、さらに慌てて蓋を外すと発火します。長時間にわたり加熱する必要はありません。20分〜30分もあれば充分です。加熱のし過ぎはニスの質を劣化させます。このニスはオイルと樹脂の割合がほぼ2:3で、常温ではほぼ生キャラメルのような粘度ですが、薄めなくても手で塗れます。ヴェネチアテレピンの代わりに松脂(コロフォニー)を、くるみ油の代わりに亜麻仁油を使ってもかまいません。使う樹脂によって出来上がるニスの色が大きく変わってくるので、自分にあうものを探せば良いでしょう。また、石灰や灰汁などでpHを調整することによりニスの色もある程度変えることができます。ただその際にはニスの質も変化するので気をつけてください。ビーズワックスを入れたのは主に乾いた後のニスが剥がれやすくするためです。ニスの質感も変わります。そんなに剥がれやすいと困るという人は入れなくても良いです。ちなみに「剥がれやすいニス=柔らかいニス」と勘違いしている人が多くいますが、そうではありません。ニスそのものはショートオイルニスよりもオイルの割合が高いロングオイルニスのほうが柔らかい層を作ります。ちなみに、Helen Michetschlägerが編集した本『Violin Varnish』 によると、故Koen PaddingがMagisterブランドで調合、販売していたオイルニスは、オイルと樹脂の割合が4:1のロングオイルニスだった可能性があるそうです。ただし、彼のニスをよく知る人によると、それよりはオイルが少なめの6:5くらいだったのではないかとのことです。ロングオイルニスの利点はショートオイルニスに比べて格段に塗りやすいことにあります。

ショートオイルニス